
穏やかで快適な出産を阻害するもの
出産になぜ痛みが伴うのか考えたことがあるでしょうか。
本来、女性の身体は、どのようにすれば自然で健康な出産ができるかを本能的に知っています。
動物のように、本能的な力を信じて身体を任せれば良いのですが、人間は動物にはないものを持っています。
それは、大きな脳=思考です。
この思考が、動物のような本能的な出産を妨げています。
その思考とは〝恐怖〟です。
恐れは、人間を最も衰弱させる破壊力の強い感情。
初めての出産に恐怖感を持っている女性は大勢います。
経産婦さんでも、難産の経験があれば初産の時よりも恐怖感を抱きます。
この恐怖感や不安が、困難な出産を招き、痛みを伴ってしまうのです。
どのような出産を経験するかは、自分が心の中にどのような出産イメージを抱いているかが、最も影響します。
出産に対する恐れを抱いたまま、怯えた心の状態で出産に臨むと、その通りの辛くて大変な出産を経験することになります。
なぜなら、身体で体験することは、まず心で決定されるからです。
これは、出産に限らずどんな病気にも当てはまります。
出産の場合、恐れから解放されていると、まさに出産の開始と同時にリラックスの状態を作り出すことができるのです。
恐怖という感情をどのように解放させるのかを知るには、まず、恐怖という感情がどのようなプロセスで身体に悪影響を及ぼすのかを学ぶことです。
では、そのプロセスについて勉強しましょう。
出産と自律神経の関係
恐れが出産にもたらす身体的な影響は、自律神経の機能に大きく関係しています。
自律神経
自律神経は脳幹および脊髄から出ている末梢神経で、主に内臓・血管・分泌腺など体内環境の機能をコントロールしています。
私たちの意志とは関係なく24時間自動で働き、生命維持の重要な役割を果たしているのです。
また、喜怒哀楽など本能的な心の動きである情動とも密接に関係しています。
自律神経には2種類あり、おおまかに交感神経=緊張、副交感神経=リラックスです。
二つの神経は協力して働いており、一方の活動が活発なときは、他方の活動は抑制されます。
交感神経と副交感神経の働きは以下の図を参照ください。

交感神経は、緊張したり運動したりするときにその働きが高まる神経です。
驚いたり、怯えたり、ストレスを感じたりなど、心や体が脅威と遭遇した際にすぐ対応できるよう、私たちの身体に指令を出します。
指令を受け取った私たちの身体は、上図左側のような状態になります。
これは、生命維持のために必要な身体の厳戒態勢であり、防御に必要でない器官(消化器・生殖器・免疫)へはあまり血液が流れなくなり、活動が一時停止されます。
一方、副交感神経は、リラックスしている時や睡眠中に働きます。
身体の休息と回復を促すための指令を出します。
その指令を受け取った際、私たちの身体は上図右側のような状態になります。
出産と自律神経
交感神経は、実際に心や体が脅威と遭遇した場合だけでなく、脅威と認識されたものに対しても反応します。
例えば、母親が妊娠期間中ずっと、出産に対するネガティブ感情を持ち続けていたり、ストレスフルな環境にいる場合は、実際に脅威と遭遇していると判断し、常に交感神経が働いてしまうのです。
本来、リラックスしなければならない妊娠期間中ですが、交感神経の働く割合が多くなるのです。
ということは、身体は緊張状態になることが多く、消化器等への血流も悪くなり、身体に必要な栄養素が送られないという状態になります。
このことから、実際の出産時に交感神経が優位に立てば、どのような状態になるかは予想ができると思います。
ネガティブ感情を持ったまま出産に臨むと、ストレス要因ホルモン・カテコラミンの分泌が誘発されます。
カテコラミンは闘争ホルモンとも呼ばれており、緊急時ストレス反応の主役です。
このホルモンが多く放出されると母体は「闘争か逃走か停止」状態になるのです。
出産時のように、闘争も逃走もできない場合、身体は停止を選択します。
身体は防御態勢に入り、本来子宮へ流れるはずの血液は防御に必要な器官へと流れていきます。
これによって、子宮へ続く動脈は緊張・収縮し、血液と酸素の流れが制限されます。
こうなると、負のスパイラルの連鎖になってしまいます。
恐れから体が緊張し、体が緊張することで筋肉が固くなり痛みが増す、その痛みからさらに恐怖が増し・・・この繰り返しです。
恐れ(Fear)・緊張(Tension)・痛み(Pain)は、進行障害(FTP)と呼ばれています。
このFTP症候群になると、医療介入になるのが一般的です。
妊娠期間中もそうですが、出産時は落ち着いてリラックスした状態で臨むことが安産に繋がります。
出産を楽しい気持ちで迎え、ポジティブスパイラルになると楽です。
女性本来の機能を信じてリラックスを意識し、自信を持って出産に臨むことが最重要です。
出産時の子宮の動き
子宮の筋肉は3層からなります。
内部層の輪走筋は子宮下部にあり、横方向に輪走している筋肉です。
子宮頸管と呼ばれる子宮の開口部分で最も層が厚くなっています。
上部外層部の縦走筋は2層の縦方向の筋肉で構成されており、垂直筋繊維といいます。
垂直筋繊維は強力で、これらの筋肉が引き締まり、子宮開口部のリラックスした輪走筋を引き上げる事により、子宮頸管が徐々に薄くなり開いてきます。
陣痛時の筋肉の動きを簡単に表現すると、下図のようなイメージです。
大雑把な図で恐縮ですが、なんとなく理解していただけたかと思います。
この筋肉の動き(陣痛)の繰り返しで、赤ちゃんは下へ移動し、徐々に子宮頸管が薄くなり開くようになります。
お母さんの体と赤ちゃんは、何度かの陣痛を通して出産と誕生に向けた準備をしているのです。
出産時の痛みの原因
子宮の筋肉が正常に機能するために必要なのは、酸素や血液です。
お母さんがリラックスできていないと、必要不可欠の酸素や血液が制限を受けます(理由は上記、自律神経参照)。
すると、本来であればリラックスして開くべきはずの子宮頚部の輪走筋が、固くなって収縮。
上部の縦走筋は輪走筋を引き上げたり戻したりしようとし続けますが、下部の輪走筋はそれに抵抗します。
そして、子宮頸管は張って閉じたままになるのです。
この二つの筋肉の相反した動きが、大きな痛みの原因になります。
お母さんが相当の痛みを感じている時、当然赤ちゃんにとっても相当な苦しみがあると思って下さい。
苦しいのはお母さんだけではありません。
この二つの筋肉の相反した状態が長引くと、赤ちゃんへ送られるはずの酸素や血液の供給が危険な状態になり、医療介入へと繋がります。
因みに産道とは、子宮下部(内子宮口)、子宮頸管、膣、外陰部(外子宮口)までをいいます
お母さんがリラックスした状態にある場合、二つの筋肉は見事に調和された動きをします。
垂直筋が上部に引き上がって収縮すると、赤ちゃんが下に移動し下部の輪走筋はリラックスして広がります。
赤ちゃんの頭に押されて子宮頸管は薄くなり開き始めます。
この一連の動きが陣痛であり、これを何度か繰り返すことで子宮頸管が大きく開きます。
この動きがスムースであれば、安産ということです。
陣痛がこのような筋肉の動きであり、赤ちゃんがこの世に出て来る準備をしていると思うと、応援したくなりませんか?
ただリラックスして、赤ちゃんとの対面を楽しみに身体の自然な動きに身を任せていれば、陣痛の痛みは感じないのです。
YouTubeで分娩の様子の動画を見つけました。
出産は、お母さんと赤ちゃんにとて一大イベントです。
赤ちゃんが苦しまないよう、リラックスした穏やかな出産を迎えたいですね。